東堂さんが連れて行ってくれたのは、木屋町通の東側にそびえ立つ雑居ビルの最上階です。ガラクタだらけの古いビルで、廃墟に足を踏み入れていくように思われました。東堂さんが分厚い扉を開けると、控え目な明かりが漏れてきて、人々の呟き声も聞こえました。汚れたカウンター、拾ってきたような薄汚れたソファーや椅子、壁に手書きのメニューがベタベタと貼ってあります。壁際の本棚にはくすんだ色の古雑誌がびっくり詰まっています。お客は皆、めいめい勝手に椅子やソファーに陣取ってお喋りをしています。
私は東堂さんに勧めらて焼酎を飲みました。
「君の幸せに乾杯しよう。乾杯」
東堂さんは焼酎を舐めながら娘さんのお話をしてくれました。私より少し年上なのですが、五年前に奥様と離婚して以来、あまり合ってもいないということでした。娘さんは東堂さんにあまり合いたがらないそうなのです。なんと哀しいお話でしょうか。東堂さんはぽつぽつと語りながら、一度だけ、ぐいと手の甲で目尻を拭いました。
「親が子どもに願うことは、ただ幸せになってくれることだけだ。君の親御さんもきっとそう思っている。俺も親だから分かるよ」
「でも幸せになるというのは、それはそれで難しいものです。」
「もちろんそうだ。親もそれを子どもに与えることはできん。子どもは自分で 自分自身のために幸せを見つけなけらればならん。しかし娘が幸せを探すためなら、俺はどんな手助けだって惜しまないね」
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